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  • 2013.03.01 Friday
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IV-i デジタル化技術、ネットワーク技術に対するWIPOの対応


 デジタル化技術、ネットワーク技術が進むことで、著作権の問題は国際的なルールでの対応を迫られるようになった。しかし、1886年成立したベルヌ条約は、1971年のパリ改正条約を最後に、その後まったく改正が行なわれない状態であった。
 半田(2005)はその理由として、デジタル技術の急速な発展に対して、権利の強化を図ろうとする先進諸国と、保護の緩和を要望する発展途上国との対立が熾烈を極め、条約の改正には全会一致を必要とすると定めたベルヌ条約において、まったくコンセンサスが得られなくなったことが原因であると述べている 。

 そこで、世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization、以下WIPO)においては、ベルヌ条約の第20条の「特別の取極」の規定を利用し、より高い水準の保護を与えることができる国のみが参加する附属条約を結ぶこととし、1991年11月からWIPOの専門家委員会において、新しい規準についての検討が進められることになった。

(WIPO本部:ジュネーヴ)

 
 ここでの目的は、「ンタラクティブ送信に対応した権利保護の整、コピープロテクション等の技術的手段の回避や権利管理情報の改変等に関する規制を設けることによって、デジタル化・ネットワーク化の急速な進展に対応した国際的なルールを作成」*するということであり、つまり、主要な目的は、著作権の国際的な強化であった。
読書 文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会『著作権法・不正競争防止法改正解説』(有斐閣、1999)、P23


 WIPOの専門家委員会での議論は、1996年12月、最終的に外交会議の場で「WIPO著作権条約(以下WCT)」と、「WIPO実演・レコード条約(以下WPPT)」の二つとして結実することとなった。*

*この2つの条約は30カ国の批准、加入により発効することになっていたため、WCTは2002年3月6日発効、WPPTは、2002年5月20日に発効した。

 この2つの条約では非常に重要な取り決めが多くなされているのだが、本論に取り分け強い関係のあるものとして、WCT第 8条及びWPPT第10条の「公衆への伝達権」*に関する取り決めと、WPPT第11条及びWPPT18条の「技術手段に関する義務」*の規定が挙げられるだろう。

*WIPO著作権条約第8条「著作者は、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達を許諾する排他的権利を享有する」

*WIPO著作権条約第11条「締結国は、著作者により許諾されておらず法によっても許容されていない行為をその著作物に対して制限する。効果的な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関して著作者が利用するものの回避に対して、適切な法的保護及び効果的な法的救済を定めなければならない」



 公衆への伝達とは、インタラクティブ送信を含む概念であり、「一般に『インタラクティブ送信』には、.機璽个肪濱僂垢觜坩戞↓▲機璽个鬟優奪肇錙璽に接続する行為、インタラクティブに送信する行為、の3つの行為が含まれる。本条の『公衆への伝達』は本来の行為のみを含むものであるが、インタラクティブ送信においては、アップロードの行為(通常ゝ擇哭△旅坩戮同時に行われている)が公衆に対して著作物をインタラクティブな方法で利用可能な状態にする上で重要であることから、△旅坩戮砲弔い討睫席犬竜定を設けて『公衆への伝達』に含まれることとした」* としている。
読書 文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会(1999)前掲書P30〜31

つまり、著作者には単に配信することだけでなく、配信できる状態にするところから、権利の及ぶ範囲に取り込むというものであった。
 なお、WPPTの第10条では、実演家、レコード製作者に対しては、アップロードに関する権利だけが与えられ、インタラクティブ送信権は与えられていない。


 次に、技術手段に関する義務だが、これは技術的に保護されているデータについて、その技術的保護手段を回避するためのソフトを販売したり、回避するための行為を規制しようというものである。
 1995年には米国がホワイトペーパーを発表。そこで「著作物の送信等をコントロールする技術的保護手段は全米情報基盤計画を成功させるために重要な技術の一つであり、消費者への情報の流通を確保するためには、技術的保護手段の回避装置等の製造等を禁止する必要がある」と主張した。
 また欧州委員会も同年にグリーンペーパーを発表。「情報社会が権利者に不利に働かないようにするには、技術的保護システムを国際的なレベルで導入することが必要である」*とした。
読書文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会(1999)前掲書P86

 文化庁によれば、「デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、無断複製等の侵害行為を発見することが困難になっていることから、著作権者等はコピープロテクション等の技術的手段を活用して事前に自らの権利を守ることが必要となっているが、その一方で、こうした技術的手段を回避するための装置が広範に販売されている実態があるため、本規定は、技術的手段の回避に対して適切な法的措置及び効果的な法的救済を定める義務を締結国に課した」*と説明されている。
読書 文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会(1999)前掲書P32-33


 次回は、WIPOの条約を批准するために日本及び米国が行った取り組みについて、整理する。

IV-ii インタラクティブ送信に対する日米の対応

 日本は、インタラクティブ送信に対する国内的な対応として、1997年、平成9年改正として、インタラクティブ送信に関する定義につき、データをサーバなどにアップする行為を「送信可能化」と名付け第2条第1項9号の5に規定した。そして、アクセスがあり次第、自動的に端末機器に向けて送信することを「自動公衆送信」として、第2条第1項9号の4に位置づけた。そして、それまでの「放送」、「有線放送」を合わせて、「公衆送信」とし、下記の図表のように整理した。
 なお、手動によるファックス送信が公衆送信に入れるべきかについては、ファックスは通信なので、まだ議論の余地はあるとされている*。

読書作花文雄 『詳解著作権法』(ぎょうせい、2006) P332



 
図表 1 文化文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会『著作権法・不正競争防止法改正解説』(有斐閣、1999)、P61から引用


 この制定により、著作者には送信可能化権及び自動公衆送信権が付与され、実演家、レコード製作者、放送事業者については、送信可能化権が付与されることになった。実演家、レコード製作者、放送事業者について、自動公衆送信権が付与されていないのは、「平成8年12月に採択されました『WIPO実演・レコード条約』が実演家及びレコード製作者には送信行為そのものには許諾権及び報酬請求権を与えずに、その前段階の行為であります送信可能化について許諾権を与えたという考え方にならうことにした」*ためである。

読書加戸守行 『著作権法逐条講義』(著作権情報センター、2006) P489


 ところで、著作権によって与えられる権利の本質は、何かができる権利ではなく、何かされることを止める権利である。例えば複製権の場合は、勝手に複製されない権利であり、同一性保持権であれば、勝手に歌詞やメロディを変えられないように差し止めることができる権利なのである 。
従って、送信可能化権という権利も、誰かが勝手に許可なくサーバーにアップロードすることをストップさせることができる権利である。日本の著作権法で送信可能化権という権利が設定されたことにより、サーバーに著作物をアップロードするためには、当該権利者の許諾をとる必要が生まれた。

 では、放送事業者は、放送をする際、すべての著作権者から都度、許諾を取っているのだろうか。著作権法第23条1項では、「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む)を行う権利を専有する」とあるように、建前としては、放送することを許諾するかしないかの権利は著作権者が専有している。
しかし、著作権法第68条1項では
「公表された著作物を放送しようとする放送事業者は、その著作権者に対し放送の許諾について協議を求めたがその協議が成立せず、又はその協議をすることができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者に支払つて、その著作物を放送することができる
(太字筆者)」となっており、公表された著作物であれば、放送局は別途定める利用料を支払えば、強制的に利用を許諾してもらえる権利を持っているのである。これを強制許諾*と呼ぶ。

*半田(2005)は強制許諾につき、「著作権者と著作物の利用を欲する者との協議が調わないときに、著作権者に対してその著作物の利用を強制すること」と定義している。

 これについては、加戸(2006)は「旧著作権法時代から引き続く制度で、放送の果たすべき公共的機能を円滑に発揮し得るよう著作権者側の権利濫用を抑制する旨に出たものでありますが、今まで現実に利用された事例はなく、一種の伝家の宝刀ともいうべき性格の規定ではございます(太字筆者)」 と、裁定を行なったことは一度もないと述べているが、実際に裁定を使うことはないものの、この規定があることにより、許諾が促されることになり、放送局は文化庁長官の定める利用料を支払うことで、公表された著作権△了藩僂浪椎修砲覆辰討い襪里任△襦

さらに、商業用レコードと、許諾があって録音した実演家の録音・録画物については排他的権利がなく、放送、有線放送については著作隣接権の許諾を取ることなく、二次使用請求権に基づく支払いのみを要求している*。

読書田村善之 『著作権法概説』(有斐閣、2003a)P528〜534

つまりこの二つの制度により、放送、有線放送は実質的に、公表された音楽については自由に放送できるのである。この権利制限について田村(2003)は、「(放送に関して権利者に)禁止権を認めず、報酬請求権に止めたのも、放送、有線放送が公衆への文化の伝達に貢献するものであることに鑑み、レコードの利用の便宜を優先したためである」*としている。

読書田村(2003a)前掲書P534

このように、放送及び有線事業者は放送に際して、図表2の著作権△砲弔い討亙鷭契禅畍△里澆魑遡海箸靴読蕕ぁ⊆賊蕾箸箴Χ藩僖譽魁璽匹覆匹涼作隣接権についてもいくつかの条件はあるものの*非常に優位な地位を保持している。

*著作権法第94条参照

一方、放送事業者以外や、放送事業者でも放送で著作物を利用する場合以外は、著作権者が送信可能化という禁止権を持っているため、自動公衆送信においては、図表2の著作権,垢戮討竜諾を取らなくてはいけないという状況になっているのである。以上が日本における自動公衆送信に関する状況である。


 一方、米国でインタラクティブ送信に関する規定は、「判例上、頒布権に媒体の移転を伴わない送信も含まれるとの解釈を採る裁判例もあるが、一般的には、同時送信及び異時送信はともに公衆実演権によって既に保護されている」*とされている。

*文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会(1999)・前掲書P138 脚注で、public performanceに関する判例として、On Command Video Corp. v. Columbia Pictures Industries, 777 F. Supp. 787 (N.D. Cal. 1991)の判決を例示している。


つまり、米国においては、WCT第 8条及びWPPT第10条への対応については、新たな法の概念の設定は不要であった。しかし、録音物に関してのみは、公衆実演権が与えられていなかったため、1996年1月1日発効の1995年録音物に対するデジタル実演家法(The Digital Performance Right in Sound Recordings Act of 1995)を制定して、デジタル送信について、録音物にも公衆実演家権を与えた。

実は、この権利は、レコード製作者がそれまで長い間求め続けてきた権利であったが、「録音物はこれまで、米国著作権法第106条(4)の規定下で公の実演の一般的な権利を一度として享受してこなかった。実際に、1972年までは、録音物は海賊行為に対してさえ、完全には連邦政府の保護対象からは締め出されていた」*という状況であり、放送業界と比較して、比較的保護のレベルは弱い状態が続いていた。

読書Marshall A. Leaffer 『アメリカ著作権法』(レクシスネクシスジャパン、2008) P498


 この法律が新たに制定された背景には、長い間、録音物に関して、実演家に対して最も交渉力を持って、優位な関係を保持していた放送業界が、インターネットの発展によって、大きなビジネスの可能性が出てきたレコード産業に対して、公衆実演権を与えることにより、逆にレコード製作者同士が録音物について許諾を必要とする関係を作ることで、新しいサービスへの障壁を作ろうとしたのでは、という意見がある。
Leaffer (2008 )は、放送会社が、「潜在的に放送会社の最も重要な将来の商業上の競争相手であるデジタル音声会員サービスに対して使用許諾認可経費を賦課」*したのであると指摘している。

読書リーファー (2008)前掲書 P499


これは米国も日本と同様に、著作権法が様々な利益団体により影響を受けているということを示す一例であろう。

 とはいえ、米国においては、この公衆実演権に関しても「この排他的権利は、第106条および第106条Aに規定されている全権利に当てはまるフェアユースのような、それらを超越した特殊な例外、および限定の制約を受けることになる」 というように、後述するフェアユースによって権利の一部が制限される可能性は引き続き担保しており、利用側と保護側とのconflictに対して、一種の調整弁を用意しているのが大きな違いであると考えられる。


IV-iii 日米の対応 デジタルミレニアム著作権法(DMCA)

  技術的保護手段の回避に関する規定は、日本では、マルチメディア小委員会にて議論され、平成11年の著作権法改正で制定された。
 大きな内容は2つであり、ひとつは技術的保護手段の回避装置等の公衆譲渡等を行ったものを処罰するというもの(第120条第2項1号及び2号)。そして、技術的保護の回避により可能となった複製を、私的使用目的で許容される複製から除外する(第30条第1項第2号)ということである。
技術保護手段の要件としては3つ掲げており、

1)    電磁的方法により、著作者人格権、著作権または実演家人格権、著作隣接権を侵害する行為を防止、または抑止しようとするものであること。
2)    著作者等の意思に基づいて用いられているものであること。
3)    機器が反応する信号を著作物等とともに記録、送信する方式によるもの。

としている。
 これらの定義から、あくまでも侵害は、複製や公衆送信のコントロールに関連する場所に発生するため、衛星放送で用いられているスクランブルを解除することや、DVDのCSS(Content Scramble System)の解除などは、アクセスコントロールなので、対象にならない*。
読書詳しくは、文化庁長官官房著作権課内著作法令研究会(1999)『著作権法・不正競争防止法改正解説』P90

 なお、「回避により違法に複製されたものが流通した場合であっても、その事実を知らないものによってなされた私的使用目的の複製は本号の適用外であり、合法」*とされる。
読書中山信弘 『著作権法』(有斐閣、2007) P247


 米国では、技術的保護について、1998年10月28日に制定されたデジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act、以下DMCA)によって規定された。

 この法律の内容は、「著作権のある著作物に適用された技術的保護手段を『回避』(または他の人の『回避』を幇助)した人に民事上および刑事上の罰則を科すもの」である。

 さらに、技術的な保護手段を回避するために使用できる機器またはサービスも禁じることになった。この規定で特に重要なのは、1201条(a)(2)において、著作物に対するアクセスについても技術的な規制の範囲に取り込んでいることである。
 日本の著作権法は、アクセス権が著作権の対象とされていないので、衛星放送のスクランブルなどにはアクセスコントロール技術の回避については、その手段の回避に対しての権利の適用はない。しかし、米国においてはその対象となる。

 なお、免責行為としては、以下のような場合には、発行著作物に対して、技術的保護手段の回避が許される。
1)    フェアユース、その他権利制限規定に該当する場合。
2)    非営利の図書館、文書資料館、教育機関が、著作物の入手をするかどうかを決定するための場合。
3)    合衆国政府又は、州政府が適法な捜査、その他の情報収集を行う場合。
4)    自己のプログラムとの互換性を達成するためにリバースエンジニアリングをする場合。
5)    暗号化の研究を行う場合。その暗号化の研究が、暗号化技術の進歩に資する場合。
6)    未成年者によるアクセス防止のみを目的とする場合、違法性の判断において、裁判所は必要性を考慮することができる。
7)    当該保護技術が個人情報を収集、流布する機能を有する場合。
8)    セキュリティ検査のためにアクセスコントロールを回避すること。
9)    放送局による一時的固定物の作成。

 このように、規制の設定自体は厳しいが、いくつかの場合の排除を明文化した上で、さらにフェアユースの可能性も付与しているのが日本との違いである。 


IV-iv 米国 デジタルミレニアム著作権法〜セーフハーバー条項


-日米のその他の対応

 米国のデジタルミレニアム著作権法では、さらに「オンライン著作権侵害責任制限法」を制定している。

 この法律は、合衆国法典第17編第5章を修正し、第511条の後に新条を付加されたものである。これは「通過的デジタルネットワーク通信」「システムキャッシング」「使用者の指示によってシステムまたはネットワークに常駐する情報」「情報探知ツール」「非営利教育機関」のような場合に、ある一定の条件を満たせば、著作権法違反にはならないということを定義したものである。
 例えば、「使用者の指示によってシステムまたはネットワークに常駐する情報」の場合、サービスプロバイダによって管理または運営されているシステム、またはネットワーク上に、そのシステムを使用しているものの指示によって素材を蓄積したことにより著作権の侵害が生じた場合、以下の条件を満たす場合は、著作権の侵害による金銭的救済または衡平法上の救済につき、サービスプロバイダは責任を負わないとされた。
 条件とは、「使用者の指示によってシステムまたはネットワークに常駐する情報」の場合、

第512条 オンライン素材に関する責任の制限
(c) 使用者の指示によってシステムまたはネットワークに常駐する情報
(1)(A)() サービスプロバイダがシステムまたはネットワーク上の素材または素材を使用した行為が著作権侵害にあたることを現実に知らないこと。
   () かかる現実の知識がない場合、侵害行為が明白となる事実または状況をしらないこと、または
   () かかる知識または認識を得た際、速やかに素材を除去しまたはアクセスを解除するための行為を行うこと。
(B)    サービスプロバイダが侵害行為をコントロールする権利および能力を有する場合、かかる侵害行為に直接起因する経済的利益を受けないこと。
(C)    第(3)項に掲げる侵害主張の通知を受けた場合に、侵害にあたるとされるまたは侵害行為の対象とされる素材を除去しまたはアクセスを解除すべく速やかに対応すること。


 とされる。
 本条の以下の(2)項と(3)項では、著作権侵害主張の通知を受領するための代理人を指定する必要があり(2項)、通知の要素として、署名や、著作物の特定、連絡先などが必要であるということを規定(3項)している。また、この上記512条の、(C)はノーティスアンドテイクダウンと言われ、侵害の通知に必要な事項、通知を受けてからの対応、それに対する反証機会の提供など、一定のフローが定められている*。
読書飯田耕一郎『プロバイダ責任制限法解説』(三省堂、2002)P102-105に詳しい。

 なお、サービスプロバイダが責任を負わずにすむ資格を得る重要な条件として、アカウント保有者が反復して侵害を行う者である場合に、しかるべき条件の下で契約を解除することを定める運営方針を採用し、合理的に実行することや、著作権のある著作物を特定し、または保護するために著作権者が使用するための標準的な技術手段を導入することも求めている。一方で、この標準的な技術手段については、サービスプロバイダに対して重大な費用を課し、またはそのシステムもしくはネットワークに重大な付加を及ぼすものではないことも合わせて規定されている。

 そして、削除した著作物について、サービスプロバイダは、素材または行為が侵害にあたると最終的に判断されるか否かにかかわらず、侵害にあたると主張される素材もしくは行為へのアクセスを善意誠実に解除しもしくはこれを除去したことに基づく請求、または侵害行為が明白となる事実もしくは状況に基づく請求に関して、何人に対しても責任を負わないとしており、これらをセーフハーバー条項と呼ぶ。

 次回、これに似た規定である日本のプロバイダ責任制限法について論じる。

IV-v 日本 プロバイダ責任制限法

 
-日米のその他の対応

 セーフハーバー条項に似た規定として、日本のプロバイダ責任制限法がある。正式には、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、2001年11月に成立した全4条の非常に短い法律である。しかし、この法律は、米国のセーフハーバー条項とは逆に、ある場合は損賠賠償責任を負うと定め、それ以外の場合は損害賠償責任は負わないという規定になっている。

具体的には第3条第1項で定められているが、サービスプロバイダ(プロバイダ責任制限法では『特定電気通信役務提供者』と呼ぶが、ここでは米国との比較のためサービスプロバイダと呼ぶ)は、以下の場合でなければ、損害賠償責任は負わないと定めている。
逆に言うと、下記の場合は、損害賠償責任を負うと規定する。

1)    サービスプロバイダが情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
2)    サービスプロバイダが、情報の流通を知っていた場合であって、サービスプロバイダの情報流通によって、他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

 この規定に対して作花(2006)は、「しかし、当該情報を蓄積した発信者と侵害を主張する告知者のいずれが正当な権利者であるのか必ずしも客観的に判断できないようなもの、つまりプロバイダーにおいて権利の帰属について明確に把握できない場合もある。また、権利の帰属は明確であっても、告知者の著作物と類似しているが独自に創作された著作物がサーバに蓄積され送信されている場合もあり得るところから、告知者の主張が正当なものであるか否か、俄に判断できないケースも想定される」*と指摘している。
読書作花文雄 詳解 著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2006)、P589

その上で、「責任制限法第3条第1項で規定するプロバイダーが『情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき』『侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があったとき』とは、いかなる場合が該当するのであろうか」*と、損害賠償を負う場合の条件として規定されている文言に対して疑問を投げかけている。
読書作花(2006)前掲書 P589


 飯田(2002)も、「3条の定める『相当の理由』の存否は、一般不法行為における作為義務や過失の存否と相当程度重なり合うのではないかと解されます。その意味で、実際に3条でどの程度プロバイダ等の責任が軽減されるのかは現段階では不明ですし、法施行前の判例の重要性は法施行後も変わりません。3条がプロバイダ等の責任制限規定としてどの程度の機能を発揮するのかは、今後の解釈、運用、判例の集積にかかってくることになるでしょう」*と述べ、明確な規定になっていない部分についての指摘をしている。
読書飯田耕一郎『プロバイダ責任制限法解説』(三省堂、2002)、P49

IV-vi 米国 フェアユースの法理


-日米のその他の対応

 最後に、米国の著作権法におけるフェアユースについて見てみる。フェアユースの法理は、「著作権侵害に対する抗弁として裁判上創設されたものであり、著作権者の承諾なしに第三者が正当な方法で著作物を使用することを許す法理である」*とされている。
読書リーファー (2008)「アメリカ著作権法」(レクシスネクシスジャパン) P671

JosephStoryフェアユースの法理が最初に名言されたのは、1841年のFolsom v. Marsh 事件で、Story判事がフェアユースの基準を明確にしたといわれる。初代大統領George Washingtonの伝記を作成するために、原告の著作物から借用したという事例において、Story判事は、それ以前の判例から、以下のような法の本質ならびに方法論を抽出した。
(Joseph Story)

 It is useless to refer to any particular cases, as to quantity.' In short, we must often, in deciding questions of this sort, look to the nature and objects of the selections made, the quantity and value of the materials used, and the degree in which the use may prejudice the sale, or diminish the profits, or supersede the objects, of the original work*.

*9 F. Cas. 342, (No. 4,901)(CCD Mass. 1841)

 --特定のケースそれぞれに対して言及するのは無駄でしょう。要するに、我々はしばしば、この種の問題に対して、性質や選ばれた目的物、使用されている素材の質と量、そして選択された量、および原作の売上に対する被害や利益を減少させた度合いを見ていかないといけない。


 そして1976年著作権法、第107条において、それまで判例法により発展してきたフェアユース特権は法制化された。フェアユースは下記のように定められた。

第107条 排他的権利の制限:フェア・ユース
 第106条および第106条Aの規定にかかわらず、批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする著作権のある著作物のフェア・ユース(コピーまたはレコードへの複製その他第106条に定める手段による使用を含む)は、著作権の侵害とならない。著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かを判断する場合に考慮すべき要素は、以下のものを含む。

(1) 使用の目的および性質(使用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的かを含む)。
(2) 著作権のある著作物の性質。
(3) 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性。
(4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響。

上記の全ての要素を考慮してフェア・ユースが認定された場合、著作物が未発行であるという事実自体は、かかる認定を妨げない。



 次回は、フェアユースが論点となった代表判例を取り上げて考察する。


IV-vii 米国 フェアユースの判例

 -日米のその他の対応

 フェアユースに関する裁判例では、Betamax事件*が挙げられるだろう。
*SONY CORP. OF AMER. v. UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC., 464 U.S. 417 (1984)

ソニーがビデオ録画機を販売したことにより、公共電波で放送された原告の著作物を多くの人々が複製をしたことにつき、寄与侵害者にあたるとして、損害賠償と差し止め請求を行った事件である。侵害連邦最高裁判所は、5対4の決定で私用目的でのタイムシフトはフェアユースを構成すると認めた。この判決においては、地裁での「公共の電波で放送された著作物の非商業的家庭内使用の録画は著作物のフェアユースであり、著作権侵害を構成しない」という結論を支持した。

 また、フェアユースが争われて逆の判決が出た事例としては、A&M records とNapsterの事件*がある。
*A&M RECORDS, Inc. v. NAPSTER, INC., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001)

Napster
は、1999年、ノースイースタン大学の学生だったショーン・ファニングが大学のネットワーク上でMP3のファイルを交換するためのシステムを公開したことから始まり、同年の10月には100万ダウンロードを記録するほど急成長したサービスだったが、1999年に訴訟になった。p2p
インターネットファイル共有のこの裁判でNapsterは、Beatmaxのタイムシフトの概念を援用し、「Napsterのユーザーは、スペースシフトを行っているのであってBearmaxと同じであり、またCD購入に先立つ試聴であるので、フェアユースである」という主張をしたが、排斥された。そして、ファイル交換ユーザーを直接侵害者と認定し、ナップスターについて間接侵害を肯定したのである。
このとき裁判所はフェアユースの4要素すべてについて言及し、使用の目的は商用利用であり、著作物の性質は、創作性の高いものであり、部分については楽曲が丸ごとであり、正規盤の売上にも大きな影響があったとして、フェアユースの4要素全てから、フェアユースが該当しない旨を判断した。

 一方、この裁判で、Napsterが寄与侵害及び代位侵害の責任を負うとされた理由としては、DMCAの「オンライン著作権侵害責任制限法」によるところが大きいといえるだろう。
Napster社は、「具体的な権利侵害物が当該システムにおいて利用可能であったことを実際に認識していたこと、しかも当該侵害物の除去をしなかったことが認められ、ユーザーによる著作説侵害行為に資するサイトと設備を提供することにより、ユーザーの侵害行為に実質的に寄与している」と認められ、また、「ユーザーの侵害行為により直接的な財産的利益を得ていること、及びNapster社は音楽ファイル交換システムを監視する権利と能力を有している」と判断されたために、寄与責任侵害があると判示されたのである。つまり、セーフハーバー条項の適用外であるという判断である。

 Leaffer (2008)は、こうしたフェアユース法理に対して、Story判事から150年経た現在も、未だとらえどころのないままであると述べながらも、一定の理論が明らかになってきていると述べている。
それは2つの側面を重視する考え方で、

(1) 被告の利用の公的な利益、つまり、当該利用が創作的か、複製的なのか。
(2) 著作物の市場への損害、すなわち、当該利用が商業的か非商業的か*。
読書Marshall A. Leaffer (牧野和夫監訳)『アメリカ著作権法』(雄松堂書店、2008)P713

という2点を指摘している。それをまとめたのが図表6である。

fairuse
    

読書Leaffer(2008)、前掲書、P714より引用

 Leaffer (2008)によれば、フェアユースを正当化するのが比較的容易なのが、左上の象限の非商業的で創作的なケース。逆にフェアユースを否定しやすいのが、右下の象限である商業的で再生的なケースとしている。一方、論争が起きるのは、左下の象限と、右上の象限であり、その場合、使用されている量やその他の要素を考える必要があると指摘している。

 フェアユースは、米国においてこのようにまだ多くの議論のある法理であるが、一方の日本では、この導入については、従来から否定的な説が多かった。それは、日本の著作権法は権利の制限について個別列挙法を採用しており、さらに解釈論としてフェアユースの抗弁を認めることは困難であるとの判例も出ている*ためである。だが、解釈論として困難だとしても立法化ができないわけではない。
*東京地裁平成7年12月18日判決「ラストメッセージin最終号」事件。判例時報1567号126P〜135P

中山(2007)は、「フェアユースの規定を導入することにより、立法時には予測できなかった事態の発生に対応でき、特に現在のような技術変化が激しい時代には、立法の遅れを補う作用を果たすことは可能であろう」*とその有益性について述べている。
読書中山 信弘 『著作権法』(有斐閣、2007)、P308

IV-viii 著作権関連法の改正と、技術の進歩

 以上前回までが、デジタル化技術、ネットワーク技術が急速に普及してきたことに対する、WIPO、日本及び米国の主な法的な対応である。

 世界的に技術の進んでいる先進国で、ともにインターネットの普及が早かった二国ではあるが、法的な対応に関しては、上記のように若干の違いがあったといえるだろう。次回からは、こうした法の制定の微妙な違いが、関連する技術にどのような影響を与えていたのかを見ていきたい。

 蝶なお、法律と技術の関係ということになると、「法律の制定だけが技術の方向を決めるわけではない」という意見もあるであろう。また、「法律というのは『原 因』ではなく、国民性やその時代的背景の『結果』に過ぎない」という意見もあるかもしれない。しかし、少なくとも社会というものは、単純な一方向の因果で 動くほどシンプルななものではなく、バタフライ効果と言われるように、ブラジルでの蝶の羽ばたきは、テキサスでトルネードを引き起こすと言われる複雑系が 支配しているのが、この世界であり、しかも、デジタル化、ネットワークの革命的な普及に対応する上記の法的対応は、関連技術に対して、蝶の羽ばたきほどの 小さな法の改正ではなかったと考える。

 田村(2003)は、Napster事件について、「最近、アメリカ合衆国では、圧縮技術(MP3)を用いて、ネットワーク経由でユーザー間の音楽ファイルの交換を促進していたNapster社のサーヴィスに対して、レコード会社の著作権に基づく仮処分的差止命令が認められるという事件があった。日本においても、類似のサーヴィスに対して日本音楽著作権連盟(JASRAC)と日本レコード協会が申し立てた仮処分事件で、やはり差止めが認められるという事件があった。解釈論はともかく、立法論として考えれば、世の中のインターネット・ユーザーのパソコンとファイルを共有できるということは、一昔前では考えられなかった夢のような話なのであって、それを否定することは技術の進歩の利用を妨げることでしかない。著作権作権法をして、技術的に時代遅れになりつつあるメディアの既得権益を維持するための道具に貶めることは避けなければならない」*(太字筆者)として、関連技術の進歩という側面から、Napster事件を見る視点を提供している。
読書田村善之 『著作権法概説』 (有斐閣、2003b)P233-234

 また、中山(2007)は、デジタル技術により情報革命が起きていることに関連して、「一般的には大量の商品を流通させるためには仲介行が重要であり、情報に関しても何らかの仲介行が重要となるであろう」と、サービスプロバイダーなど、インターネット上での仲介する存在の重要性を指摘した上で、「今後は電子商取引が格段に進展するであろうし、電子商取引は将来のビジネスの形態を一変させるかもしれないような大きなインパクトを持つ技術である。電子商取引において取引されるものの中心は情報であり、その中でも主要なものが著作物である。その意味から、著作権制度は、単に文化問題に留まらず、広く経済・貿易問題ともなっており、その点においては特許制度と共通点がある」*(太字筆者)として、著作物の流通、配信にかかわる技術の価値について述べている。
読書中山信弘 『著作権法』 (有斐閣、2007)P29

 次回からは、これまでに見た著作権法の改正の影響が、関連特許技術にどのような影響を与えているのかについて検証をしていく。

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